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岐阜地方裁判所 昭和58年(ワ)530号 判決 1983年12月13日

原告

豊田泰弘

被告

有限会社野寺基礎工業

ほか一名

主文

一1  被告有限会社野寺基礎工業は、原告に対して、金六一五万九〇二一円とこれに対する昭和五六年三月六日から支払いずみに至るまで年五分の割合による金員とを併せ支払え。

2  原告の同被告に対するその余の請求を棄却する。

二  原告の被告渡辺運輸株式会社に対する請求を棄却する。

三  訴訟費用中、原告と被告渡辺運輸株式会社との間に生じた分は原告の負担とし、原告と被告有限会社野寺基礎工業との間に生じた分は、原告と同被告との折半負担とする。

四  この判決は、第一項の1に限り、原告において仮にこれを執行することができる。

事実

第一当事者の求めた裁判

一  請求の趣旨

1  被告両名は、原告に対して、金二三六四万五八九二円とこれに対する昭和五六年三月六日から支払いずみに至るまで年五分の割合による金員を連帯して支払え。

2  訴訟費用は被告両名の連帯負担とする。

3  仮執行の宣言

二  請求の趣旨に対する被告両名の各答弁

(被告有限会社野寺基礎工業の答弁)

1 原告の同被告に対する請求を棄却する。

2 訴訟費用は原告の負担とする。

(被告渡辺運輸株式会社の答弁)

1 原告の同被告に対する請求を棄却する。

2 訴訟費用は原告の負担とする。

第二当事者の主張

一  請求原因

1  事故の発生とその状況

(一) 原告は、昭和五六年三月六日午前八時ころ、長野県諏訪郡富士見町乙事一三〇〇番地所在の富士見海洋センター建設工事現場において、同所に駐車中であつた被告渡辺運輸株式会社(以下、単に「被告渡辺運輸」という。)所有にかかる大型貨物自動車(名古屋一一か五七〇一号、以下、単に「被告渡辺車」ともいう。)の荷台からこれに積載してあるコンクリートパイル一五本を地上に降ろすための作業に従事するにあたり、いわゆるタイコ係り(この点については、以下(二)において説明する。)としての役割を担当していた。

(二) ところで、右の荷台に積載されたコンクリートパイル一五本は、一条のワイヤーロープで一塊りにして同荷台に縛りつけられていたが、本件においては、右コンクリートパイルの荷降ろしに際して、以下のようないわゆるタイコによる荷降ろしの方法が用いられた。

すなわち、

(1) まず、被告渡辺車の車台右側に設けられた軸差し部分に軸(心棒)を差し入れて、軸(心棒)を車体に固着させ、ついて、この軸(心棒)のうちの車体外にはみ出た部分に俗にタイコと称する器具(ワイヤーロープをこれに巻き付ける器具)を装着し、このタイコにコンクリートパイルを縛つた前示一条のワイヤーロープの余剰部分のうちの一部を四~五回巻きつけて、さらにその余のワイヤーロープ余剰部分を地上に垂らして這わせるなどする(以下、右装置の操作を担当する者を単に「タイコ係り」という。)。

(2) そして、タイコ係りは、荷台上に積載されているコンクリートパイルの移動状況又は荷降ろし作業の進捗状況に応じて、前示のように地上に垂れ下がつているワイヤーロープの余剰部分をタイコに巻き付けながら、タイコを媒介として――ワイヤーロープの前示余剰部分を――荷台方向に順次移動させる。

(三) 原告は、被告渡辺車の荷台に積載されたコンクリートパイルの荷降ろし作業に際し、前示のごときタイコ係りとしての役割を遂行するために、同車の右車側線(ちなみに、当時、同車は、東方に向かつて駐車していた。)に対面しながら、前記タイコ部分付近に立つて、右手でワイヤーロープを握つていたところ、折から、東西に通ずる道路上を西進して、被告渡辺車に接近し、その側方(南側方)を通過しようとした被告有限会社野寺基礎工業(以下、単に「被告野寺基礎」というの占有・使用にかかり、かつ、同被告の従業員である訴外田中和義運転にかかる小型貨物自動車(松本四四ぬ九〇二七号、以下、単に「被告野寺車」ともいう。)が、右道路上に垂れ下がつて這つていた前記ワイヤーロープ又はその先端の半径一〇~一五センチメートルの還状部分(以下、該部分を単に「フック」という。)に、自車(被告野寺車)の車体下方部分を引つかけて、右ワイヤーロープを強く引つ張つたため、前記のようにしてワイヤーロープを握持していた原告の右手が該ロープとタイコとの間に挟まれるという事故が発生した。

(四) かくして、原告は、右事故のために、右手第Ⅰ指挫創・右手第Ⅲ・Ⅳ・Ⅴ指各切断という重傷を負うに至つた(以下、上記の事故を単に「本件事故」又は「本件人身事故」という。)。

2  責任原因

(一) 被告野寺基礎の責任原因

(1) 同被告が前記被告野寺車の運行供用者であり、しかも、本件人身事故が被告野寺車の運行によつて発生したものであることは明らかであるから、同被告は、自動車損害賠償保障法(以下、単に「自賠法」という。)三条に基づき、原告に対して、該人身事故に起因する原告の損害を賠償すべき責任をとうてい免れ得ないものである。

(2) 仮に、右(1)指摘の事実関係が肯認できず、したがつて、同被告が本件人身事故について原告に対して自賠法三条に基づく損害賠償責任を負担するものではない旨の判断が示されるとしても、前記田中和義は、本件当時、被告野寺基礎の自動車運転手として就労、稼働していたものであるところ、前記1の(三)のごとくにして被告野寺車を運転・走行するに際し、自動車運転者に課せられた基本的な注意義務である前方注視・安全確認等の義務を怠つたまま、漫然と進行したために、進路前方の道路上に前記1の(三)のごとくにして垂れ下がつていたワイヤーロープを看過するなどし、結局、該ワイヤーロープ(フック部分を含む。)を自車の車体下方部に引つかけて右ワイヤーロープを強く引つ張るというような事態を招来して本件人身事故を惹起するに至つたものであるから、本件人身事故は、被告野寺基礎の被用者である前記田中和義が同被告の事業を執行するに際し自らの過失によつて惹起したものであること明らかというべく、したがつて、同被告が、民法七一五条に基づいて、原告に対し、本件人身事故の故に原告の被つた損害を賠償すべき責任を免れ得ないものであることもまたきわめて明らかである。

(二) 被告渡辺運輸の責任原因

(1) 同被告が前記被告渡辺車の所有者であることは明らかである。

(2) しかして、本件人身事故は、被告渡辺車にその構造上設備されているタイコを含む諸般の荷降ろし装置を被告渡辺運輸その従業員らをして本来の用法に従つて作動させていた際に惹起されたものであるから、これが被告渡辺車の運行によつて惹起されたものとして、評価さるべきものであることは当然である。

(3) されば、同被告が自賠法三条に基づき、原告に対して、本件人身事故に起因する原告の損害を賠償すべき責任を免れ得ないものであることは、きわめて明らかである。

3  本件人身事故によつて原告が被つた損害

以下(一)ないし(九)の合計額金二八三二万八六九八円

(一) 治療費(金二〇万〇八四〇円)

原告は、本件事故の日から昭和五六年三月二五日までの間は長野県厚生農業協同組合連合会の富士見高原病院において、また、同月二六日から同年五月一日までの間は医療法人社団双樹会早徳病院において、それぞれ本件事故によつて被つた前記傷害についての治療を受け、該各治療費等として、右富士見高原病院に対しては金一九万五二六三円を、また右早徳病院に対しては金五五七七円を、それぞれ支払つた。

(二) 入院雑費(金二万円)

原告は、本件事故の日から、昭和五六年三月二五日までの二〇日間にわたつて、前記富士見高原病院で治療を受けるために同病院に入院した。しかして、原告は、右入院期間を通じて、一日あたり金一〇〇〇円の入院雑費を支出したから、原告が右入院期間中に支出した入院雑費の合計額は金二万円である。

(三) 付添費用(金六万円)

前記(二)のように、原告は、本件事故の日から二〇日間にわたつて、右の富士見高原病院に入院し、この間、原告の親族による付添・看護を受けたのであるが、該付添・看護を受けたことの故に原告が出捐を余儀なくされるべき費用は少なくとも一日について金三〇〇〇円を下廻ることはないものというべく、したがつて、右入院期間二〇日間を通じて、原告の負担すべき付添・看護料が合計金六万円となることは計算上明らかである。

(四) 交通費(金一〇万円)

原告が二〇日間にわたつて入院した前記富士見高原病院の所在地が長野県諏訪郡富士見町落合に所在し、他方、原告方の住居が岐阜県本巣郡穂積町穂積に所在する関係上、原告の家族をして入院所要道具の運搬等のために原告方と右富士見高原病院との間を一往復させるのには少なくとも金二万円の出捐を免れないものというべきところ、原告は、その必要上、右入院期間を通じて、その家族をして、右の区間を少なくとも五往復させたのであるから、これらに要した交通費が合計金一〇万円を下廻ることのないこともまた明らかである。

(五) 入・通院慰謝料(金三〇万円)

原告は、本件傷害を治療するため、前記(一)のごとく、本件事故の日から昭和五六年三月二五日までの二〇日間にわたつて前示富士見高原病院に入院したほか、さらに該病院を退院した日の翌日である同月二六日から同年五月一日までの三七日間にわたつて前示早徳病院に通院(但し、通院実日数は一四日である。)して治療を受けた。その結果、同年五月一日に後記(七)のごとく本件傷害の症状が固定するに至つたのであるが、右の症状固定日までの入・通院の状況に徴すると、本件受傷時から右症状固定時までの間に、本件傷害の故に原告の被つた精神的・肉体的苦痛に対する慰謝料としては、これを金三〇万円と評価するのが相当である。

(六) 休業損害(金五一万三二九三円)

原告は、本件事故の日から前示の症状固定の日(昭和五六年五月一日)までの前後五七日間にわたつて、本件事故による傷害の故に全く稼働することができず、そのために、本件事故に遭遇しなかつたならば当然挙げることができたであろう利益を取得することができなかつた。しかして、本件事故発生の年の前年である昭和五五年中における原告の総所得額は金三二八万六八七九円であつたから、該所得金額を基準として、前記五七日間にわたる原告の休業損害を算出すると、これが金五一万三二九三円となることは、後記計算式に徴して、きわめて明らかである。

3,286,879円×57/365=513,293円(但し、その年が閏年であると否とにかからわず、1年を365日として計算するほか、円未満を切り捨てる。以下同じ。)

(七) 後遺障害による逸失利益(金二一六三万四五六五円)

(1) 原告の本件受傷に基づく症状は前記のように昭和五六年五月一日に固定するに至つたのであるが、その後遺障害の程度は、右手第Ⅰ指が〇・三センチメートル短縮して顕著な機能障害を伴う、というものであり、また、同第Ⅲ指が四センチメートル、同第Ⅳ指が四・五センチメートル、同第Ⅴ指が一・八センチメートル、それぞれ短縮して、右三本の指についてはいずれも指節間の関節拘縮が認められる、というものである。

(2) しかして、右(1)のごとき原告の後遺障害の程度が自賠法施行令二条関係の別表(後遺障害別等級表)に定める第九級一二号に該当するものであることは明らかであつて、その労働能力の喪失割合は三五パーセントを下廻ることがないものというべきである。

(3) ところで、原告は、昭和二〇年八月三一日生れの男性で、前示の症状固定当時三五歳であつたから、通常男性と同じく六七歳までの就労が可能であるとして、昭和五五年中における原告の前示年間総所得額金三二八万六八七九円に依拠して、右症状固定時以降三二年間の前示労働能力喪失率に基づく逸失利益額について、これをホフマン式計算法に従い、年五分の割合による中間利息を控除した現在価額に換算すると、これが金二一六三万四五六五円となることは、左記計算式に徴して、きわめて明らかである。

3,286,879円×0.35×18.806=21,634,565円

(八) 後遺障害慰謝料(金四〇〇万円)

本件受傷に起因する原告の後遺障害の程度が前記(七)のごとくに重篤なものであることを考慮すると、本件受傷に起因する右後遺障害の故に原告の被つた精神的・肉体的苦痛に対する慰謝料としては、これを金四〇〇万円と評価するのが相当である。

(九) 弁護士費用(金一五〇万円)

原告は、被告両名が原告に対して本件事故に基づく損害賠償義務を任意に履行しなかつたため、いずれも弁護士である原告訴訟代理人らに本訴の提起・追行を委任するのやむなきに至つたが、原告において原告の訴訟代理人らに支払うことを約諾した費用・報酬額は金一五〇万円である。

4  損害金の一部填補額(金四六八万二八〇六円)

原告が本件人身事故によつて被つた損害の合計額は、前記3の(一)ないし(九)のごとく金二八三二万八六九八円にのぼるが、他方、原告は、これまでに、被告野寺車の加入していた自動車損害賠償責任保険に関して、その損害保険金として金四六八万二八〇六円を受領したから、本件人身事故によつて被つた原告の損害額のうちいまだに填補されていない金額が差引金二三六四万五八九二円となることは、計算上きわめて明らかである。

5  そこで、原告は、本件人身事故に起因して原告の被つた損害を賠償すべき責任を免れ得ない被告両名に対しては、右4項の末尾記載にかかる金二三六四万五八九二円とこれに対する本件人身事故発生の日である昭和五六年三月六日以降支払いずみに至るまで民法所定年五分の割合による遅延損害金の連帯支払方を求めるために、本訴請求に及んだ。

二  請求原因に対する被告野寺基礎の認否

1  請求原因1の事実は、これをすべて認める。

2  請求原因2の(一)の(1)の事実関係は、これを認める(しかし、被告野寺基礎が、本件人身事故に起因して原告の被つた損害を賠償すべき責任を毫も負担するものでないことについては、後記四の同被告の抗弁欄1の記載を参照のこと。)

3  請求原因2の(一)の(2)事実は、そのうち、本件人身事故が被告野寺車の運転者(田中和義)による原告指摘のごとき注意義務違反(過失)に起因して発生したものである、という部分は、これを否認するが、その余の部分は、すべてこれを認める。

4  請求原因3の諸事実は、すべてこれを否認する。

5  請求原因4の事実は、これを認める(なお、被告野寺基礎が、その抗弁として、右請求原因4の事実と同旨の事実を主張していることについては、後記四の同被告の抗弁欄3の記載を参照のこと。)。

三  請求原因に対する被告渡辺運輸の認否

1  請求原因1の事実のうちの(一)ないし(三)の各点はいずれもこれを認めるが、同(四)の点は知らない

2  請求原因2の(二)の(1)の事実は、これを認めるが、同2の(二)の(2)の点については、その事実関係を否認し、かつ、その法律的主張を争う。

3  請求原因3及び同4の各事実は、いずれも知らない。

四  被告野寺基礎の抗弁

1  本件人身事故は原告の一方的な過失によつて惹起されたものであつて、該事故の発生について被告野寺車の運転者である訴外田中和義の側にはなんらの過失もなかつたのに加えて、該事故の発生当時、被告野寺車には構造上の欠陥も機能上の障害も全くなかつたのであるから、被告野寺基礎が本件人身事故に起因して原告の被つた損害を賠償すべき責任を毫も負担すべきいわれのないものであることは余りにも明らかである。以下、この点について若干の敷衍をすることとする。

(一) 本件事故は、被告渡辺車の荷台からその積荷を降ろすためにタイコとワイヤーロープを操作していた原告(タイコ係り)がワイヤーロープ先端のフツクを被告野寺車の進路前方の道路上に這わせていたところ、同車が該フツクの這つている部分に接近したころ、不運にもなんらかの衝撃の故に、俄かに該フツクが道路上に起き上がり、これが折から同所を通過しようとした被告野寺車の車体下方部分に引つかかつたことによつて発生したものであるから、同車の運転者である訴外田中和義において、このような事態を事前に予見するというがごときことはとうてい不可能であつたものというべく、したがつて、本件事故の発生について右田中和義の側になんらの過失もなかつたことはきわめて明らかである。

(二) 本件事故当時、原告は、被告渡辺車の右車側線に対面(北面)しながら、そのタイコ部分よりやや東方寄りの位置に立つて、右手にワイヤーロープを握持し、これをタイコに四~五廻り右巻きに巻きつけて、その余剰部分を左方(西方)に垂らして道路上に這わせるというがごとき危険な操作方法を講じていたのに加えて、東方から本件事故現場に接近して、その手前で一時停止をした被告野寺車に対して、本件事故現場を通過しても差し支えない旨の合図をして、同車を西進・通過させて、本件事故に遭遇したものであるから、該事故が原告の一方的な過失によつて発生したものであることは余りにも明らかである。

2  仮に、右1の主張を全面的には肯認することができず、本件事故の発生について被告野寺車の運転者である前記田中和義の側にも若干の過失があつた旨の事実が肯認されるとしても、本件事故発生の状況等に関する前指摘の事実関係に照らすと、本件事故の発生については、原告の側に一層大きい過失のあつたことが明らかであるから、過失相殺の法理の適用によつて、被告野寺基礎の原告に対する損害賠償義務の範囲は、原告の過失割合に応じて減額せらるべきが当然である。

3  原告は、これまでに、原告が本件人身事故によつて被つた損害の填補として、被告野寺車の加入していた自動車損害賠償責任保険に関する損害保険金として、金四六八万二八〇六円を受領している。

五  被告渡辺運輸の抗弁

仮に、本件において、事故発生の当時、被告渡辺車に装着されていたタイコ及びワイヤーロープが同車に固有の装置である旨の評価を免れず、本件事故が同車の運行によつて惹起されたものとして評価されるとしても、その当時、該装置を操作していたものは原告ただ独りであつたから、ひつきよう本件事故に関しては、原告自身が自賠法三条の運転者に該当するものというべく、したがつて、原告が同法条の保護の対象となりうべき「他人」にあたらないことは明らかである。

六  被告野寺基礎の抗弁に対する原告の認否

1  抗弁1の事実関係を否認し、その法律的主張を争う。

2  抗弁2の前提として主張されている抗弁1の事実関係を否認し、その法律的主張を争う。

3  抗弁3の事実は、これを認める(なお、該事実は、原告がその請求原因4において指摘した事実と同旨である。)。

七  被告渡辺運輸の抗弁に対する原告の認否

本件事故当時、被告渡辺車に装着されていたタイコとワイヤーロープを操作していたものが原告独りであつたことは、これを認めるが、当時、同車の荷台から積荷を降ろすための諸作業に従事していたものが原告ただ独りでなかつたことは、さきに請求原因2の(二)の(2)において指摘したとおりであるから、本件事故の発生に関して、原告が自賠法三条にいわゆる被告渡辺車の運転者に該当しないことは明らかである。

第三証拠関係〔略〕

理由

一  原告主張の請求原因1のうちの(一)ないし(三)の各事実は、原告と被告両名との間において争いのないところである。そして、同1のうちの(四)の事実は、原告と被告野寺基礎との間においてはその当事者間に争いがなく、また、該事実は、原告と被告渡辺運輸との間においては、いずれもその成立について争いのない甲第一号証、同第二号証の一と二の各記載に原告本人尋問の結果を総合することによつて、これを肯認するのに十分であり、該認定を左右するに足りる証拠はない。

二  そこで、つぎに、原告主張の請求原因2の(一)の(1)の点、すなわち、本件人身事故によつて原告の被つた損害について被告野寺基礎に自賠法三条所定の損害賠償責任があるか否かの点について検討してみると、まず、原告が請求原因2の(一)の(1)において主張する事実関係そのものは、同被告の認めて争わないところであるから、該事実関係に徴すると、同被告がその抗弁(事実摘示欄の第四項の「被告野寺基礎の抗弁」欄参照のこと、以下同じ。)の1において主張する事実関係にして肯認されない限り、同被告が、本件人身事故によつて原告の被つた損害について自賠法三条所定の損害賠償責任を免れ得ないものであることは明らかというのほかはない。それ故、以下に、同被告の前記抗弁事実が果たして是認できるものであるか否かの点について検討すると、まず、本件事故の発生当時、被告野寺車に構造上の欠陥も機能上の障害もなかつたことは、弁論の全趣旨に徴して、これを優に肯認することができる。しかして、いずれもその成立について争いのない甲第七号証、同第九号証の一ないし二〇、乙第一号証の一ないし九、同第二号証の一ないし五、同第六号証の一ないし六、証人二階堂弘明及び同田中和義の各証言と該各証言によつてその成立が真正であると認められる乙第四号証と原告本人尋問の結果(但し、後記措信しない部分を除く。)とを総合すると、本件事故の発生状況等については、以下のような諸事実が認められる。すなわち、

1  本件事故の発生現場は、東西に通ずる幅員約五・四メートルの非舗装道路上であること。

2  本件事故当時、被告渡辺車(その車幅は二・五メートル)は、前記道路上に車首を東方に向けて、車体の左側端が道路の北側端に沿うような位置に駐車していたこと。

3  原告は、右のごとくに駐車している被告渡辺車の積荷の荷降ろし作業に関して、いわゆるタイコ係りとしての役割を実行していたとき本件事故に遭遇したものであるが、当時、原告は、同車の右車側線に対面しながら、同車車体の右側に装着されたタイコ部分付近に立つて、右手にワイヤーロープを握持して、これを四~五廻りタイコに巻きつけ、その余剰部分を地上に垂らし、その先端のフツク部分を地上に這わせていたこと(右の事実は、前示のごとく当事者間に争いがない。)

4  被告野寺車(その車幅は一・六四メートル)を運転して、前記東西に通ずる道路を西進しながら、本件事故現場付近に接近してきた訴外田中和義は、いつたん、本件事故現場の手前で自車を停止させたこと。

5  当時、前記田中は、原告が、被告渡辺車の南側道路上(該道路のほぼ中央付近)で同車のタイコ部分よりも若干東方寄りの位置に佇立して、同車の右車側線に対面しながら、右手に握持したワイヤーロープをタイコに四~五廻り右巻きに巻きつけ、該ワイヤーロープの余剰部分を左方(西方)に垂らすようにしており、また、その先端のフツク部分が道路上に横たわるような恰好で這つているのを現認したこと。

6  右田中和義は、その運転にかかる車両(被告野寺車)を前記のように原告の手前(約一〇・五メートル手前の地点)でいつたん停車させたものの、原告から、原告の南側の前示道路部分(原告の佇立していた位置と該道路の南側端との間隔は、約二・五メートルであつた。)を通過しても差し支えがない旨の合図を受けたために、ただちに発進して西方に走行し、原告の南側方を通過しかかつたころ、前示道路上に這つていたワイヤーロープ先端のフツクを自車の車体下方部に引つかけてこれを強く引つ張り、そのことによつて、ワイヤーロープを握持していた原告の右手を該ロープと前示タイコとの間に強く挟ませるという結果を招来して、本件事故を惹起させるに至つたこと。

以上の事実を優に肯認することができる。原告本人尋問の結果のうち上記認定に牴触する趣旨に帰着する部分は、前掲各証拠に対比してたやすく措信することができず、他に上記の認定を左右するに足りるような証跡は毫もこれを発見することができない。

そして、以上認定の事実関係に徴すると、本件においては、右説示のように、原告が、東西道路のほぼ中央部付近に佇立して、被告渡辺車の右(南)車側線に対面(北面)しながらそのタイコ部分南寄りの位置でワイヤーロープを右手に握持し、かつ、これをタイコに四~五廻り右巻きに巻きつけてその余剰部分を左方(西方)に垂らしており、しかもその当時、前記ワイヤーロープ先端のフツクが道路上に横たわるようにして這つていたのであるから、このような状況のもとで、被告野寺車を運転して原告の南側方の前示道路部分を西進・通過しようとした右田中和義としては、いやしくも、自車進路上付近に垂れ下がつているワイヤーロープや地上に這うような恰好で横たわつているフツクを自車で踏んだり、あるいは自車車体の一部に引つかけたりすることのないよう細心の注意を傾倒して走行すべき注意義務があつたのにもかかわらず、原告が自己(原告)の南側方の前示道路部分を西進・通過しても差し支えない旨の合図をしたのを契機に、漫然、該注意義務を懈怠したまま走行して本件事故を招来するに至つたものというのほかはない。そうすると、本件事故の発生については被告野寺車の運転者である前記田中和義の側になんらの過失もなかつたことを前提とする被告野寺基礎の前記抗弁1の主張は、右の点においてその証明がないものというべく、かえつて、上来説示の諸事情に徴すると、本件事故の発生については、被告野寺車の運転者である右田中和義の側に前指摘のごとき過失のあつたことが明らかというのほかはない(もつとも、原告の側にも本件事故の発生について相当の過失があつたことは、とうていこれを否定することができない。なお、この点については、後記第五項の「過失相殺に関する判断」の欄参照のこと。)。されば、被告野寺基礎がその抗弁1において主張するいわゆる完全免責の抗弁は、とうてい失当として排斥を免れない。

三  つぎに、原告主張の請求原因2の(二)の点、すなわち、本件人身事故の発生によつて原告の被つた損害について被告渡辺運輸に自賠法三条所定の損害賠償責任があるか否かの点について検討してみよう。

1  まず、被告渡辺車が被告渡辺運輸の所有する自動車であることは当事者間に争いのないところである。

2  そこで、すすんで、本件人身事故が、はたして自賠法三条にいわゆる被告渡辺車の運行によつて生じた事故にあたるか否かの点について判断することとする。

まず、自賠法三条所定の「自動車の運行」ということが、自動車を当該装置の用い方に従つて用いることを指称するものであることは、同法二条二項の明定するところである。しかして、同法のそもそもの立法趣旨が、自動車の走行自体に伴う危険からはもちろんのこと、さらに自動車の利用に関連して通常発生することあるべき危険からも、被害者を保護・救済しようとするにあることを考慮すると、右にいう当該装置が、単なる自動車の走行装置自体だけではなく、さらに、当該自動車に固有のその他の諸装置をも包含するものとして観念されるべきものであることは疑いを容れない。そうとすると、自動車に関係してある特定の装置を用いることが、はたして自動車を当該装置の用い方に従つて用いることにあたるか否か、すなわち、「自動車の運行」に該当するか否かを判断するにあたつては、すべからく、当該装置を自動車に設置する目的・態様をはじめ、当該装置と自動車の走行との接着性ないしは関連性の有無・程度並びに当該装置が内包する危険性の程度・態様など諸般の事情を総合・考量して、これを決定するのが相当である。

そこで、以上の観点から本件について検討してみるに、いずれもその成立について争いのない甲第九号証の一ないし九、証人二階堂弘明の証言とこれによつていずれもその成立が真正であると認められる乙第三号証と同第五号証並びに原告本人及び被告渡辺運輸代表者本人(渡辺勉)の各尋問結果を総合すると、以下の諸事実が認められる。すなわち、

(一)  本件荷降ろし装置の構成物及びその操作方法は、原告がその請求原因1の(二)の(1)及び(2)において指摘するとおりであるが、右の荷降ろし装置のうちのタイコと軸(心棒)は、荷降ろし作業時に限つて車体に装着されるものであつて、それ以外の機会には、これらは、終始車体から取りはずされていること。

(二)  荷台の積荷(コンクリートパイル)を支えるためのワイヤーロープが荷降ろし作業時においても使用されることはもちろんであるが、該ロープは、荷降ろし作業の際そのための装置の一部として車体に装着されるタイコに(該ロープを)四~五回巻きつけることによつて、これが自然に弛緩するのを防止できるものであること

(三)  本件事故のごとき種類の事故の発生は稀有ともいうべきものであつて、被告渡辺運輸の代表者においても、これまで約一〇か年の間に、本件事故と同種の事故の事例報告には接していないこと。

(四)  被告渡辺車は、本件事故発生時よりも三~四時間以前に本件事故現場に到着して爾来引き続き駐車していたもので、本件事故発生時よりも約一時間以前にようやく同車両の積荷(コンクリートパイル)の荷降ろし作業が開始されたところ、不幸にも該作業中に本件事故の発生をみるに至つたこと。

以上の事実が肯認でき、該認定を左右するに足りる証拠は毫もこれを見いだし得ない。

しかして、自動車にある特定の装置を装着するなどし、かつこれを用いて作業をすることが、はたして、具体的に「自動車の運行」に該当することになるのか否かを決定するための判断要素としてさきに説示した諸点と上記認定のごとき本件にみられる具体的な事実関係とを対比・検討するときは、本件におけるがごとき荷降ろし装置を用いてするコンクリートパイルの荷降ろし作業を目して、これが自賠法三条所定の「自動車の運行」に該当するものと評価することは、いまだとうてい不可能であるというのほかはない。

3  そうとすると、右説示と異なり、前記の荷降ろし作業が自賠法三条所定の「自動車(被告渡辺車)の運行」に該当することを前提とする原告の被告渡辺運輸に対する本訴請求は、その余の争点についての判断を加えるまでもなく、すでに右の点において、とうてい失当として排斥を免れない。

四  そこで、以下、原告が被告野寺基礎に対して適法に請求することのできる損害賠償請求債権額の範囲を確定するための前提として、原告が本件人身事故によつて被つた損害額の点について検討することとする。

1  治療費(金二〇万〇八四〇円)

いずれもその成立に争いのない甲第三号証と同第四号証の各記載に弁論の全趣旨を総合すれば、原告主張の請求原因3の(一)の事実は、これを優に肯認することができ、該認定を左右するに足りる証跡はないから、原告が本件人身事故に起因する傷害の治療費として、その指摘にかかる治療機関に対して合計金二〇万〇八四〇円を支払つたことは明らかである。

2  入院雑費(金二万円)

その成立に争いのない甲第一号証の記載と原告本人尋問の結果並びに弁論の全趣旨を総合すれば、原告主張の請求原因3の(二)の事実は、これを優に肯認することができ、該認定を覆すに足りる証跡は毫もこれを見いだし得ないから、原告が、本件人身事故に起因する傷害治療のために入院した期間(二〇日間)中に、その入院雑費として合計金二万円の出捐・支弁を余儀なくされたものであることは明らかである。

3  付添費用(金六万円)

前掲各証拠と弁論の全趣旨に徴すると、原告主張の請求原因3の(三)の事実の存在することを容易に窺知することができ、該認定を左右するに足りる証拠はないから、結局、原告が、その主張にかかる前後二〇日間にわたる入院期間中に、合計金六万円の付添・看護料の出捐を余儀なくされたものであることは明らかである。

4  交通費(金一〇万円)

前掲各証拠に弁論の全趣旨を総合すれば、原告主張の請求原因3の(四)の事実は、これを認めるのに十分であり、該認定を左右するに足りる証拠は毫もこれを見いだし得ないから、結局、原告がその主張にかかる前後二〇日間にわたる入院期間中に、その主張のごとき交通費として少なくとも合計金一〇万円の出捐を余儀なくされたことは明らかである。

5  入・通院慰謝料(金三〇万円)

前掲各証拠に弁論の全趣旨を総合すれば、原告主張の請求原因3の(五)の事実関係は、すべてこれを優に肯認することができ、該認定を左右するに足りる証拠は毫もこれを見いだし得ない。しかして、前認定の事実関係に徴すると、原告が、本件受傷時からその主張のごとき症状固定時までの間に、本件受傷の故に被つた精神的・肉体的苦痛に対する慰謝料額は、これを金三〇万円と評価するのが相当である。

6  休業損害(金五一万三二九三円)

前掲各証拠のほか、その成立に争いのない甲第五号証の記載に弁論の全趣旨を総合すれば、原告主張の請求原因3の(六)の事実関係は、すべてこれを優に肯認することができ、該認定を左右するに足りる証跡は毫もこれを見いだし得ない。そして、右認定の事実関係によれば、本件受傷時からその指摘にかかる症状固定時までの前後五七日間にわたる原告の休業損害額が、まさに原告主張の請求原因3の(六)の計算式のごとく、金五一万三二九三円と算定されるべきことは余りにも明白である。

7  後遺障害による逸失利益(金一六六八万九五二二円)

(一)  前掲甲第二号証の一と二の各記載と原告本人尋問の結果に弁論の全趣旨を総合すれば、原告が本件受傷の故に、その請求原因3の(七)の(1)記載のごとき後遺障害を負うに至つたことを明認するのに十分であつて、該認定を左右するに足りる証拠は毫もこれを見いだし得ない。

(二)  しかして、原告は、右(一)のごとき原告の後遺障害の程度が自賠法施行令二条関係の別表(後遺障害別等級表)に定める第九級一二号に該当する旨を主張するが、前掲各証拠によつて認められる前記のごとき原告の後遺障害の内容に徴すると、原告の前記後遺障害の程度が右後遺障害別等級表に定める第一〇級七号に該当することは明らかであるが、これが原告主張のごとく右等級表に定める第九級一二号に該当するものであるとまでは、いまだこれを認め得ないものというのほかはない。そうとすると、右の後遺障害に起因する原告の労働能力喪失率は経験則上二七パーセントと推認するのが相当であつて、該推認を覆すに足りる特段の証拠は毫もこれを発見し得ない。

(三)  ところで、原告本人尋問の結果を含む前掲各証拠に弁論の全趣旨を総合すれば、原告が昭和二〇年八月三一日生れの男性で、前認定の症状固定当時三五歳であつたことを優に認めることができ、該認定を左右するに足りる証拠は毫もなく、また、前記症状固定の年の前年である昭和五五年中における原告の年間総所得額が金三二八万六八七九円であつたことは、さきに認定したとおりである。されば、原告が、もしも、本件事故に遭遇せず、したがつて、前記のごとき後遺障害を被ることがなかつたならば、原告は、通常男性と同じく六七歳までの三二年間にわたる就労可能期間を通じて、一年間につき、少なくとも、昭和五五年中におけると同じく金三二八万六八七九円の所得を挙げることができた筋合というべきであるから、右症状固定時以降右三二年間の前認定の労働能力喪失率に基づく原告の逸失利益額について、これをホフマン式計算法に従い、年五分の割合による中間利息を控除した現在価額に換算すると、これが金一六六八万九五二二円となることは、左記計算式に徴して、きわめて明らかである。

3,286,879円×0.27×18.806=16,689,522円

8  後遺障害慰謝料(金三二〇万円)

本件受傷に起因する原告の後遺障害の程度が前認定のごときものであることのほかに、前認定の原告の年齢をも併せ考量すると、本件受傷に起因する右後遺障害の故に原告の被つた精神的苦痛等に対する慰謝料は、これを金三二〇万円と評価するのが相当である。

9  本件人身事故によつて原告の被つた損害合計額(金二一〇八万三六五五円)

以上1ないし8に説示した損害額を合計すると、これが金二一〇八万三六五五円となることは計算上きわめて明らかである。

五  過失相殺に関する判断

本件事故の発生状況については、さきに第二項において認定・説示したとおりであつて、原告の側にも、(1)いわゆるタイコ係りとして被告渡辺車の荷(コンクリートパイル)降ろし作業に従事するにあたり、幅員約五・四メートルの非舗装道路である東西道路上のほぼ中央付近で、被告渡辺車の右(南)車側線に対面(北面)しながら、同車体の右(南)側に装着されたタイコよりもやや東方寄りの地点に佇立し、右手に握持したワイヤーロープをタイコに四~五廻り右巻きに巻きつけて、その余剰部分をタイコよりも西方に垂らし、その先端のフックを前示東西道路上に横たえるように這わせたままにしていた点、さらには、(2)このような状況にあつたのにもかかわらず、上記のワイヤーロープ余剰部分を移動させたりすることもなく、そのままに放置したまま、原告の佇立地点の東方約一〇・五メートルの地点に一時停止中であつた被告野寺車(その車幅は一・六四メートル)の運転者田中和義に対して、自己の南側方(なお、当時の原告の佇立地点と東西道路の南側端との間隔は、わずかに約二・五メートルにすぎなかつた。)を西進・通過しても差し支えない旨を指示し、右野寺車をして、東西道路上の原告の南側方部分を通過させた点、以上の二点において、少なからざる過失があつたものというべく、ひつきよう、本件事故は、被告野寺車の運転者である訴外田中和義の前認定のごとき過失と原告の右のような過失との競合によつて発生したものであることが明らかというのほかはない。

そして、前記のような状況に徴すると、本件事故に関する原告の過失割合は、これを五〇パーセントと認めるのが相当である。

それ故、前記第四項末尾記載の原告の損害額合計金二一〇八万三六五五円について過失相殺による五〇パーセントの減額をすると、原告の被告野寺基礎に対する元来の損害賠償債権額が金一〇五四万一八二七円となることは計算上明らかである。

六  一部弁済について

被告野寺基礎の主張する抗弁3の事実、すなわち、原告が、これまでに、本件人身事故によつて被つた損害の填補として、被告野寺車の加入していた自動車損害賠償責任保険契約に関する損害保険金として、合計金四六八万二八〇六円を受領していることは、当事者間に争いのないところであるから、該金額を第五項の末尾記載の金一〇五四万一八二七円から控除すると、その残額が金五八五万九〇二一円となることもまた計算上きわめて明らかである。

七  弁護士費用

原告本人尋問の結果に弁論の全趣旨を総合すると、原告は、被告野寺基礎が原告に対して任意に本件事故に起因する原告の損害を賠償しなかつたため、いずれも弁護士である原告訴訟代理人らに本件訴訟の提起・追行を委任し、その際、相当額の報酬等を支払うことを約諾した旨の事実を認めることができ、該認定を左右するに足りる証拠はない。しかして、本件訴訟の内容・性質・経過及び弁護士費用を除く請求認容額など諸般の事情を総合勘案すると、原告が、被告野寺基礎に対して、本件事故と相当因果関係のある損害としてその賠償方を請求できる弁護士費用金額は、これを金三〇万円と認めるのが相当である。

八  以上の次第であるから、原告の被告渡辺運輸に対する本訴請求はその理由がないので、これを全部失当として棄却すべきであるが、原告の被告野寺基礎に対する本訴請求は、そのうち、第六項末尾記載の金五八五万九〇二一円と第七項記載の金三〇万円とを合算した金六一五万九〇二一円とこれに対する本件事故発生の日である昭和五六年三月六日から支払いずみに至るまで年五分の割合による遅延損害金の支払いを求める限度においては、その理由があるので、これを正当として認容すべきであるが、その余の部分はその理由がないので、これを失当として棄却すべきである。

よつて、訴訟費用の負担については民訴法八九条・九二条本文を、仮執行の宣言については同法一九六条を、それぞれ適用して、主文のとおり判決する。

(裁判官 服部正明)

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